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福岡地方裁判所 昭和33年(ワ)967号 判決

原告 金丸豊

被告 九州製氷株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告は原告に対し福岡市大字箱崎字飛島町四一一四番地の一三宅地六十坪四合、福岡市大字箱崎四一一四番地の一三家屋番号松浜町六二番ノ二木造瓦葺平屋建居宅一棟建坪十六坪が原告の所有であることを確認し、且つ右各不動産につき原告名義に所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として「一、請求趣旨記載の土地、家屋(以下本件土地、家屋と略称する)はもと訴外株式会社藤田組の所有で(但し本件家屋は未登記であつた)昭和二十三年七月二十三日日本復興住宅株式会社がこれを買受けた。

二、原告は右日本復興住宅株式会社が昭和二十三年七月十九日設立登記されると共に同会社の専務取締役に就任したものであるが、これより先同年五月中旬右藤田組の承認を得て当時の住所佐世保市より本件家屋に移転居住した。そうして同年七月末原告は日本復興住宅株式会社代表取締役森本武平より本件土地、家屋の贈与を受けた。しかしその登記(本件家屋は未登記のまゝ)はいずれもしておらなかつた。

三、原告は昭和二十五年五月中に日本復興住宅株式会社を退社したが引続き本件土地、家屋を使用し占有して来た。入居当時本件家屋は物置小屋同様でそのまゝでは住居に使用できないような程度のものであつたが贈与を受けると共に原告は漸次改造修理を加え現在のような住居に使用できる程度にした。

四、日本復興住宅株式会社は原告が退社して後昭和二十六年九月十日その商号を協和建設株式会社と変更したがその重役等は既に原告に贈与されたものであることを知らないまゝ同年八月十一日本件家屋につき保存登記をなし、同年十一月二十八日本件土地、家屋を被告九州製氷株式会社に売渡しその所有権移転登記を経た。

五、右の事情は、訴外楢崎軍治なる者が昭和三十三年八月中旬突然原告に対し本件土地、家屋は自分が買受けたので明渡すか買取るかされたい旨申立てたので、原告は福岡法務局箱崎出張所において調査しその結果判明したものである。

六、以上本件土地、家屋は原告が贈与により所有権を取得したものであり、仮にこれが認められないとしてもなお原告は昭和二十三年七月末以来自己の所有物として建物については自己の費用で改造修理を加え平隠且つ公然に占有を継続し、而も占有の当初自己の所有物として信ずるにつき過失がなかつたものであるからその後十年を経過した昭和三十三年七月末日本件土地、家屋所有権を時効により取得した。

よつて被告に対し請求趣旨のとおり本件土地、家屋の所有権の確認ならびに所有権移転登記手続を求めるため本訴に及ぶ。」と述べ、

証拠として、証人坂口範長、同金丸千代美、同吉村善次郎、同吉田敏雄の各証言ならびに原告本人尋問の結果を援用し、乙第三号証は不知、その余の乙各号証は成立を認めると述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として「原告主張の請求原因事実中第一項記載の事実は不知、第二項記載の事実中原告が本件土地、家屋の贈与を受けたことは否認、その余の事実は不知、第三項記載の事実中原告が現在本件家屋に居住していることは認めるがその余の事実は不知、第四項記載の事実中昭和二十六年八月十一日本件家屋につき保存登記がなされたこと及び同年十一月二十八日被告が本件土地、家屋を買受けたことは認めるがその余の事実は争う。第五項記載の事実中昭和三十三年被告が本件土地、家屋を訴外楢崎軍治に売却したことは認めるがその余の事実は争う。第六項記載の事実は否認する。」と述べ、

証拠として乙第一ないし第三号証、乙第四号証の一、二を提出し、証人森山陽一、同下小田利一の各証言ならびに被告会社代表者本人尋問の結果を援用した。

理由

原告は昭和二十三年七月末本件土地、家屋をその所有者訴外日本復興住宅株式会社より贈与を受け所有権を取得したが、右訴外会社(後に協和建設株式会社と商号を変更した)は昭和二十六年十一月二十八日更に本件土地、家屋を被告に売渡しその所有権移転登記を完了したので被告に対し原告の所有権確認ならびに所有権移転登記手続を求めると主張する。

仮に原告主張のとおり本件土地、家屋が原告に贈与されたものであるとしても民法第百七十七条によりこれを被告に対抗するためにはその登記がなければならないところ、原告について登記がないばかりか却つて被告に対し訴外会社から所有権移転登記がなされていることが原告の主張自体明白である。従つて贈与の有無その他爾余の判断を俟つまでもなく原告の主張は主張自体理由がない。

原告は次に、本件土地、家屋は原告において昭和二十三年七月末訴外日本復興住宅株式会社より贈与を受けて以来自己の所有物として改造、修理を加え引続き居住占有を継続し、右占有はその前後を通じて終始善意、無過失、平隠、公然に所有の意思を以てなされたのであるから十年を経過した昭和三十三年七月末には原告において取得時効の完成により本件土地、家屋の所有権を取得した。ところが右訴外会社は昭和二十六年十一月二十八日本件土地、家屋を被告に売渡しその所有権移転登記を完了したので被告に対し原告の所有権確認ならびに所有権移転登記手続を求めると主張する。

しかしながら取得時効完成の前に登記に基いて所有権が取得された場合にはその登記以後においてさらに時効取得に必要な期間占有が継続された場合でなければ時効取得の効力を生じないと解すべきであるから原告の右主張は爾余の点を判断するまでもなく主張自体理由がない。

以上により原告の本訴請求はこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 山口定男)

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